壊れるほどに愛さないで
──此処に来るのはいつぶりだろうか。母に祖母の家のあった場所を聞くと私は電車を乗り継ぎ、雪斗と初めて出会った雪の街へ来ていた。

目の前には、あの日と同じ真っ白な銀色の世界が広がっている。

「わぁ……」

私は転ばないように長靴で雪を踏みしめながら、ゆっくりと凍った湖へと近づいていく。

「あ……スノードロップ」

湖のほとりには、雪の飴玉のようなスノードロップが咲き乱れてこちらをみて(わら)っているようだ。私はポケットに手を突っ込むと雪斗からもらったスノードロップを光に翳した。

「本当……食べれちゃいそう」

私は小さく笑うと、足元のスノードロップの目の前にしゃがみ込んだ。

陽の光が積もった雪を照して、銀の絨毯は眩い輝きを放ち、空からは小さな雪の粒が踊るように風に乗って、タンポポの綿毛のように空を遊びながら降りてくる。

「見て、綺麗ね」

私が膨らんできたお腹に触れながら微笑みかけるとすぐにお臍の内側から、ちょんと返事がきた。

「ふふ……産まれたらまた来ようね。雪は真っ白で冷たくて儚くて綺麗で……触れたら心が壊れてしまいそうなほどに愛おしい……」

掌を空に向ければ、落下してきた氷のカケラは体温に触れた瞬間に溶けて水に戻る。

まるで、私の恋しい心そのものだ。雪斗に触れられたのは一瞬で、あとは涙となって誰にも気づかれないまま落ちて消えていく。
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