壊れるほどに愛さないで
あれから、いくつもの季節が通り過ぎて、私は母親になり、雪斗と共に小さな幸せを日々積み重ねていた。

「美織ー、寝室のクローゼットに洋服吊っていっていい?」

引っ越し業者が残していった大量の段ボールの山を見つめながら私は雪斗の声に振り返る。

「うん、お願い。ねぇ……三人家族とはいえ凄い量だよね」

私の声に、雪斗がスウェット姿で頭を掻きながらリビングへとやってくる。

「それもそうだけど、益川部長の辞令は急すぎ」

「だね」 

私がクスッと笑うと雪斗が肩をすくめた。

雪斗の隣町の事務所への転勤辞令がでたのが2週間前だ。雪斗が一人暮らしに使っていた部屋に家族三人で暮らしていたが、手狭になってきたこともあり私達は、少し広めの2DKのマンションに引っ越してきた。

「しっかし、今日もよく降るな、雪」

雪斗が、まだカーテンのかかってない窓に腕を当てると空を見上げた。

「うん、あとでお散歩行こっか」

「どっちが先にスノードロップみつけるか競争な」

雪斗が意地悪く唇を持ち上げた。

「どっちもも何もマンション前の花壇に既に咲いてたじゃない」

「あ、気づいてた?さすが美織は白いモノ好きだな」

「もうー……」

そして顔を見合わせて笑うと、私達は同じタイミングで辺りを見渡した。

「あれ、美里(みさと)は?」
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