壊れるほどに愛さないで
自宅マンションから病院までは五分ほどで到着した。受付をすませ、小児科外来の待合室で診察を待つ。周りを見渡せば外来は空いている。思っているより早く診てもらえるかもしれない。

「ケホケホッ……ケホケホッ」

美里は、時折大きく深呼吸しながら苦しげに咳き込んでいる。

「美里、しんどいね。もうすぐ先生が診てくれるからね」

雪斗が美里の額にそっと触れる。

「熱は……なさそうだな」

美里がふいに毛布から両手を出すと私に差し出した

「まま……だっこ」

「あ、抱っこ?おいで」

「美織、大丈夫?美里結構重いけど」

「いつも抱っこしてるから大丈夫だよ」

「そっか、じゃあ美里、ママの抱っこな」

雪斗が美里を毛布に包み直すと、そっと私に美里の体を預けた。

「まま、いたいこと……ケホッ……しない?」

美里を見てると自分の小さい頃を思い出す。私もよくこうやって発作を起こすたび両親に連れられて病院にきた。そして、病院という場所柄、こわくて痛いことをされないか母に訊ねていたことを思い出す。

「しないよ、大丈夫。きっと優しい先生だよ」

「うん、はやく良くなるように診てもらおうな……あ、ごめ」

「雪斗?」

見れば雪斗が、ポケットからスマホを引っ張り出した。 

「担当先の先生から、問い合わせの電話だ。ごめん、ちょっと電話してくるな」

「うん、分かった」

雪斗は立ち上がると携帯電話の通話可能エリアへと歩いていく。 

「ぱぱ、ケホケホッ……かえって……ケホッくる?」

「大丈夫だよ、パパも電話終わったらすぐ来るからね」

美里の背中を摩りながら、私は美里の黒髪をそっと撫でた。

『番号札五番の待野さん、診察室一番にお入りください』 

男性医師の声に手元の番号札を確認してから、私は美里を抱えて診察室に入る。そして丸椅子に腰掛けると、まだ若そうな黒髪の男性医師が問診票を見ながらこちらに振り向いた。

「えっ……」

私の驚きの声に相手は綺麗な二重瞼を細めると、ふっと笑った。
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