壊れるほどに愛さないで
私は、診察室からでると、お会計を待つ。手元の番号札の番号が、電光掲示板に光ったのを確認して、本片手に立ち上がった。

その時、ポケットの中で震えたスマホを取ろうと私は、視線を自身のスカートに向けた。

「きゃっ……」

小さな衝撃と、思わず出た私の小さな叫び声と共に、相手の手元から零れ落ちた、書類が辺りに散らばっていく。

「あ!ごめんなさい」

赤みがかった茶髪の制服姿の女性が、先に謝罪の言葉を口にした。

「あ、いえ、私こそ前を見てなくて……」

「私もです、あまり前を見てなくて、患者様にぶつかってしまうなんて、すみません。お怪我はないですか?」

首から下げられているネームホルダーには、『伊藤桃葉』と印字されている。

「全然大丈夫です」

私は書類を拾い上げながら、肩をすくめた。

「こちらの不注意なのに、患者様に書類まで拾って頂くなんて、申し訳ありません」

桃葉は、眉を下げながら、小さく頭を下げた。

その時、ふいに桃葉が、私の手元をみて、目を大きく見開いた。

(……え?)

桃葉の視線を辿れば、私が落っことした、本から、はみ出ている写真に向けられている。

「……えと、あの、どうぞ」

私は、拾い上げた書類を桃葉に手渡した。

「あ、有難う御座いますっ」

桃葉は、すぐに写真から視線を外すと、丸い二重瞼を細めて、お尻の埃をポンと(はた)くと足早に事務局の方へと向かって行った。

私は、本の間に写真を挟み込むと、お会計を済ませ、そして、再度震えたスマホを開くと、今度はすぐにラインメッセージを確認した。

私へメッセージを送った相手は、勿論、友也だ。

『美織の好きなプリン予約できたよ』

『美織、診察大丈夫だった?』

私は、友也からのラインに絵文字と共に返信する。

『異常なしだよ。プリン楽しみ』

私が、送った某アニメの名探偵の動く絵文字に、友也から、すぐに返信がくる。

『何味のプリンにしたか推理しておいてね、名探偵』

私は、友也からの返答に思わずクスッと笑った。

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