壊れるほどに愛さないで
病院エントランスを出てから、ふと、喉が渇いていることに気づく。

(そういえば、病院に来てから、ずっと飲んでなかったな……)

辺りを見渡せば、エントランス横に自動販売機が見える。11月にしては、今日は、気温が高くて暑い位だ。私は、トレンチコートを脱ぐと腕にかけた。  

自動販売機の前には、長身のスーツ姿の男性が、千円札を入れて、ボタンを押そうとするところだった。

少しだけ距離をとり、後ろに並ぶ。

「あれ?……」 

見れば、男性が自動販売機に入れた千円札が、入れても戻されてきている。

「マジか……」

うっすら浮かんだ額の汗を拭う男性に、私は、掌を差し出した。

「これどうぞ」

「え?」

男性は、戸惑いながら、私の掌と自動販売機を交互に見つめている。

「10円玉の釣り銭切れだから、これ使ってください」

「いや、でも……」 

「30円ですから」  

クスッと笑った私を見て、ようやく男性と目があった。
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