壊れるほどに愛さないで
お会計を済ませて院内処方箋を貰うと、私は美里にシロップのお薬をすぐに飲ませた。美里は仕事の電話を終えた雪斗が戻ってくるなり、甘えてひっついている。

「美里えらかったな。それに、すぐ治るみたいで良かったな」

「うん、やさしいせんせいだった」

美里は咳止めのシロップを飲ませると気分的にもすこし楽になったようで、さっきよりも随分と顔色も機嫌もいい。雪斗が美里を毛布に(くる)んでおぶると私は薬の入った白いビニール袋をぶら下げながら病院のエントランスを潜り抜けていく。外に出れば、まだ雪がちらついていた。

「お、さむ……美里も美織も大丈夫?」

「私は大丈夫、美里は?平気?」

私は自分の巻いていた白いマフラーを美里に巻きつける。

「まま、ありがと。あったかい」

美里が白い吐息と共にニカっと笑った。そしてエントランスを出て駐車場に向かっていると、美里が病院の花壇を指差した。

「ぱぱ、ままみて。きれいなおはなだよ」

美里の指先をなぞれば、うっすらと積もった雪の中からスノードロップが顔をだしている。

私が微笑むのと雪斗が笑うのが同時だった。

「美里も白いモノすきだよな。あれはスノードロップだよ」

「ん?どろっぷ? ……たべれるの?」

「雪の飴玉みたいだろ。食べられないけど、それは希望に満ちていて心に寄り添ってくれる花なんだ」

「うーん……よくわかんない」

「美里にもいつか分かるよ。誰かを心から愛すること、そして愛されること」

私は、美里にそう言うと雪斗の背中から見えている小さな掌を握りしめながら、スノードロップを眺めた。

「帰ろう、俺たちの家に」

「うんっ、ぱぱ、ままだいすき」

「パパもママも美里が大好きだよ」

寄り添って笑い合いながら、ささやかな幸せと希望だけを抱きしめて歩いていく私達を真っ白なスノードロップが、ただ静かに見つめていた。






2022.1.22 遊野 煌

※写真はフリー素材です。
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