壊れるほどに愛さないで
「あ、綾瀬和です。美織と一緒に、第二エリアチームの営業アシスタントをしています。てゆうか一日早くないですか?」

和は、誰にでもくったくなく会話する。それが嫌味も嫌悪感もなく聞こえるのは、和のもつ魅力の一つだといつも思う。

「担当先病院の偵察とか、駐車場の場所とか見るついでに、此処も見ておきたくて、一日早く出社しちゃいました。てことで、宜しくお願いします」

ニッと笑うと、雪斗は、キョロキョロとして自分のデスクを探す。

「此処ですよ」

私は、自分の荷物を置いた、隣のデスクを指先した。

「有難うございます」

第二エリアチームは、二つのグループに分けられていて、それぞれ五人の営業マンが在籍している。

主に個人病院を担当する営業マンは、工藤(くどう)課長率いる工藤チームと呼ばれ、和が営業アシスタントをしている。

もう一つは、主に総合病院を担当する増川(ますかわ)部長率いる増川チームだ。

「俺の隣ってことは、美織さんも増川チームですか?」  

(美織さん……) 

雪斗の切長の瞳に見つめられると、何故だか居心地が悪い。

「……はい、宜しくお願いします」

「へぇ、待野君、もう美織呼びなんだ?」

やり取りを聞いていた、和が、不思議そうに雪斗に訊ねた。

「あ……そういえば、つい……なんだろう?すみません」

雪斗が、うーん、と首を捻っている。

「あ、名前で……だ、大丈夫です」 

どうして、そう答えたのかはわからないけれど、私は、咄嗟にそう答えていた。理由なんてない。ただ、雪斗から下の名前で呼ばれることが嫌ではなかった。
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