壊れるほどに愛さないで
ふいに、ガチャっと扉が開く音がして、パタパタとリビングに走ってくる音がする。

「雪斗ー、泊めて」

二重の垂れ目を細めると、俺の腕に絡みつく。

「あのな桃葉、インターホン位鳴らせ」

「やだ、雪斗が、鍵かけないのが悪い」

俺は、ソファーから上半身を起こした。

「ねぇ、何かあった?」

「何が?」

「なーんか、雪斗が、ぼんやりしてるように見えたから」

「そんな事ないけど……時季的なもんかな」

俺は、桃葉の顔が曇るのが、分かってて、そう答えた。コスモスの花を見るたびに、いつも彼女の顔を思い出すから。

忘れるなんてできっこない。

「え、これ」

「どした?」

見れば、桃葉が、俺が、ソファーの脇に置いていた純愛小説を拾い上げる。小説の端から、彼女の写真が僅かに見える。

「雪斗……ねぇ、これ誰かに貸したり、とかしてないよね?」

「は?誰に?」

目を丸くした俺を見ながら、桃葉が、右手を顔の前で振った。

「忘れて、何でもない」

そして、そのまま桃葉の唇が俺に重ねられる。

「俺まだ、飯食べてないから」

桃葉を抱かない言い訳を探して、そう答えた俺に桃葉は、構わずキスを続ける。

「雪斗、好き」

淡い赤みがかった長い髪の毛を揺らしながら、桃葉が、起きあがろうとした俺をソファーに押し返す。

「俺は……」

俺は、いつも桃葉のこの言葉に対して、何も返してやれない。

「身体だけでもいいの」

「桃葉」

少しだけ華奢な肩を押し返せば、桃葉の目尻には、涙が浮かんでいる。
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