壊れるほどに愛さないで
給湯室は、事務所を出て突き当たりの右手にある、3畳ほどのスペースで、簡易コンロ、ポット、冷蔵庫、流し台がある。

3畳の部屋に大人二人、それも、長身の雪斗となると、とても狭く感じて、キッチンの前に並ぶと、私の肩は、雪斗に自然と当たる。

「思ったより狭いんですね」
 
「ですね」

私は、電気ポットに水を入れるとスイッチをオンにした。そして、いつものように、引き出しを開ける。

「あれ?」

「どうかしました?」

「この引き出しにドリップコーヒー入ってるんですけど、切らしてるみたいで……戸棚だと思います」

私が、背伸びをして、戸棚を開けようとした時だった。雪斗の長い腕が伸びてきて、いとも簡単に戸棚を開けると、新品のドリップコーヒーのパックを取り出した。

ふわりと、自分とは違う柔軟剤と雪斗の匂いが鼻を掠めた。

「あ、ありがとうございます」

私は、急に顔が熱くなるのを感じて、雪斗の顔を見ずに、ドリップコーヒーのパックを受け取ろうとする。

「わっ」

「おっと」

受け取る時に、軽く雪斗の指先が、私の指先に触れて、落っことしそうになった。

「あ、ごめん、美織さん、大丈夫?」

「えと、手が滑りそうになって……」

「俺も手伝いますよ」

雪斗は、慣れた手つきでドリップコーヒーをセットして、お湯を注ぐ。注げば、コーヒーの粉が溶けるようにして、マグカップに吸い込まれていく。すぐに給湯室はコーヒーの良い香りに包まれた。

「それ、お気に入りのマグカップ?」

雪斗が、私のマグカップを指差した。
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