壊れるほどに愛さないで
「うん、夜遅いから、美織が心配で」

『大丈夫だよ、帰りは和とタクシーで帰るし……』

「場所どこ?迎えに行くよ」

美織から、すぐに返事はない。

わずかな沈黙が、美織が僕に会いたくない事実を突きつけられる。

『えと、何時に終わるか分からないから、大丈夫。また家に着いたら連絡するね』

「そっか……気をつけてね」

『うん……』

「じゃあ、また僕も連絡……」

『美織さん、あ、ごめっ……』

ーーーー電話を切ろうとした時だった。

美織のスマホの向こう側から、男の声がした。

僕のスマホを握る手に力がこもる。


「美織?誰?」

『あ……会社の人が呼びにきてくれたから切るね』

「美織、待っ……」

話中音が聞こえてきて、僕は、呆然とした。

「誰だ……?」

まず、美織の事を、『美織さん』と呼んでいた事。

ただの会社の同僚ならば、『葉山さん』が普通じゃないだろうか?

何故だか、美織が、嘘を吐いたあの日、美織と話していた男の後ろ姿を思い出す。

ーーーーそれに、あの声。

少し高めの声。嫉妬からだろうか?

僕は、あの声を聞いたことがある、そんな気がした。
< 69 / 301 >

この作品をシェア

pagetop