壊れるほどに愛さないで
「どうかした?」

「あの、この本……今読んでて」

「そうなんだ、面白い?」

雪斗の返答にキョトンとした私をみて、雪斗が肩をすくめた。 

「俺、結局、読んでなくてさ」

私は、微笑み返した。

「恋愛小説だもんね」

「まぁ……ね」

雪斗は、小さく頷くと、時計を振り返った。
時間は、6時になっている。時間を気にした私を見ながら、雪斗が、シャワールームを指差した。

「お湯沸かしてる間にどうぞ。俺、昨日入ったから。そのまま出勤は、マズいでしょ?」

「あ、でも……着替えが」

化粧は、なんとか鞄の中のもので何とかなるけど、着替えがない。一度自宅に帰る時間はあるだろうか。思案してる私を見ながら、雪斗が、寝室のクローゼットを開けた。

そして、シンプルな紺色のワンピースをクローゼットから取り出すと、気まずそうな顔で私に差し出した。

「……ごめん、こんなの着たくないかもだけど……えっと、元カノのなんだけど……無いよりマシかなって」

頭を掻きながら、困ったような雪斗の顔に思わず笑っていた。

「有難う、借りるね」

「最低だよな、美織さんに、こんなの貸すの」

「……私も恋人いること黙ってて……それにいまから家帰ると遅刻しちゃうから、その、貸してくれて、助かるから……」

肩をすくめた私を見ながら、雪斗が、ふっと笑った。
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