壊れるほどに愛さないで
いい匂いに誘われて見れば、テーブルにはトーストと目玉焼きが乗っかっている。

「あ。美織、こっち、どうぞ」

「有難う」

雪斗が、目だけ細めて微笑んだ。

「美味しそう、頂きます」 

「味は、全っ然普通だよ」

ケラケラと笑う、子供みたいに笑う雪斗の笑顔に、記憶の端が引っ張られるようにして、思わず見惚れていた。

「あんま見ないで、美織に見られたら、俺もさすがに照れるから」

美織……そう呼ばれただけで顔が熱い。

雪斗が、困ったように、私を見つめた。

「あと……さっきさ……美織に、遊びであんなことした訳じゃないから」

「う……ん」

「美織って顔に出やすいな」

真っ赤な顔をした私を見ながら、雪斗が、ふっと笑った。

「困ってるんでしょ?彼氏いるのに、俺とこうやって過ごしてること」

私は、初めて付き合って、初めて体を許した人が友也だった。友也と付き合い始めてから、他の男の人が気になることもなければ、ドキドキすることなんて一度もなかったのに、どうしてかわからない。

雪斗といると、自分が自分じゃないみたいだ。
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