内緒の双子を見つけた御曹司は、純真ママを愛し尽くして離さない
華奢な体形の果歩は本の詰まった重たいダンボール箱に歯を食いしばらないといけないが、つらいと感じたことは一度もない。

書店員はまさに天職で、しかし熱意が空回りと言われてしまっても仕方ないという自覚は少しある。

(このお客様は写真集に喜んでくれなかった。店長の言う通り迷惑だったかも。一方的な押しつけは駄目よね。熱くなりすぎないように気をつけよう)

「もう邪魔させませんのでゆっくりお探しください」

店長に無用の本を書棚に戻すよう言われた果歩は、残念に思いつつも従おうとした。

すると男性客の手が写真集に伸びて、取り上げられた。

「この二冊、買います」

「えっ?」

果歩も店長も驚いて、彼の顔をまじまじと見てしまう。

「彼女の言う通り、今の俺の心に必要かもしれないと思ったんですよ」

肩を揺すって笑いだした彼に店長は戸惑っていたが、果歩は気持ちが伝わった気がして満面の笑みを浮かべた。

「ありがとうございます!」

写真集二冊を購入し、足取り軽く退店した客――それが卓也だった。

次に彼に会ったのは三日後の閉店間際だ。

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