内緒の双子を見つけた御曹司は、純真ママを愛し尽くして離さない
兄の不機嫌顔を想像し、今までの果歩なら少し遅くなったくらいでうるさいと反発しただろうが、今はホッとして涙がにじんだ。

シングルマザーになる覚悟を決めても、金銭的な余裕はなく、子供を抱えての生活に不安が消えないからだ。

(お兄ちゃんなら、絶対に助けてくれる)

「甘えてばかりでごめんなさい」

スマホに向けて呟いた果歩は、今から向かうと返信し、急いで支度をして自宅を出た。


それから三十分ほどして、電車とバスを乗り継いだ果歩は隣町の自宅に帰ってきた。

亡き祖父が建てた築五十年ほどの二階建て一軒家で、果歩はここで生まれ育った。

「ただいま」

鍵は自分で開けて、居間に入ってから兄に声をかける。

「遅い」

「ごめんなさい」

「まぁいい。暑かっただろ、ご苦労さん」

十歳上の兄は中肉中背で、真面目そうな黒縁眼鏡をかけている。

短く硬い黒髪は中央分けで、白い半そでポロシャツに夏物のストレートパンツを穿いていた。

ズボンは去年の誕生日に果歩が贈ったもので若者風だが、ポロシャツを合わせるとどうにもおじさんに見えてしまう。

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