愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 紘人と出会ったのは共通の友人を通してだった。

 会社の同期が、長く付き合っていた彼女に振られて落ち込んでいるのを励ますという名目で、仲の良い同僚と共に集まった場に紘人はいた。同期の大学の先輩だと紹介され、たまたま近くに座ったのをきっかけに会話を始める。

 第一印象は優しそうで穏やかな人だった。柔和な笑顔に、きっと私よりもサラサラに違いない色素が薄めの茶色い髪。年上らしく落ち着いた雰囲気に、さらには同業種という共通点もあってそれなりに話は盛り上がった。

 私にしては一対一で異性と話が弾むのも珍しい。紘人はシステムエンジニアとして会社を起ち上げていて、RADソリューションの名は私も耳にしたことがあった。

 ふと、机の上にグラスの底を乱暴に置いた音で会話が途切れる。

『彼女、浮気してたんだよ。ひどくないか? けっこうまめに連絡してたのに……あー、くそ。復讐してやる』

 周りに勧められるままにアルコールを飲んで、すっかり出来あがっている主役の彼がテーブルに突っ伏していた。目が据わって物騒な発言を口にする彼に対し、各々が好き勝手慰めている。見かねた私はそっと彼に近づいた。

『つらいのはわかるけれど、馬鹿言ってないで。今すぐじゃなくてもいつか彼女よりいい人見つけて、幸せになろうよ! それが一番の復讐だよ!』

 自分なりに懸命に励ます。それが彼に響いているのかどうかはわからないけれど。
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