愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 最初に契約書を交わしていたが、著作権を譲渡するものにすり替えられていたそうだ。故意で悪質以外のなにものでもない。

「さすがにひどすぎるよな。直談判したが取り合ってもらえず、当時学生だったのもあってどうにもできなかったらしい」

 自分の築き上げてきたものを横取りされ、信じていたものに裏切られる。そんなひどいことが許されていいのか。

 理不尽さに体が震えるが、紘人の負った傷はこれ以上深くて絶望を感じたに違いない。佐竹さんが人間不信と言った意味がわかった。

 その経験があったからこそ紘人はどこかの企業に就職したりはせず、信頼している佐竹さんと一緒に会社を興そうと決めたのかな。

『実際に裏切られたら、そんな簡単に前向きには考えられないよ?』

 あのときの紘人の冷たい口調は自分の体験からきていたんだ。彼が私の発言に苛立ったのもしょうがない。

『今でも絶対に許せない相手がいるんだ』

 時折、すごく寂しそうで、それでいて険しい表情をするのはそのせいなんだ。

 落ち込む私を佐竹さんは懸命に励ましてくれた。聞かせてほしいと言ったのは私なのだから、これ以上佐竹さんに迷惑をかけるわけにはいかない。なにより紘人の前では知らないふりをしないと。

 そこで紘人が戻ってきて私たちはまた他愛ない話を始めた。笑いながら時折紘人の横顔を見つめる。

 私が彼のためにできることってなに? 知らなかったとはいえ、そんな経験をした彼に正反対の考えを持つ私は寄り添えていなかったのかもしれない。
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