愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
『ごめん。明日なんだけれど急な仕事が入って会えなくなった』

 八月の最終週、電話の向こうで紘人がすまなさそうな顔をしているのが容易に想像できる。土曜日に会う約束をしていたが、どうやら都合が悪くなったらしい。

「そっか。わかった」

 いつもなら寂しさに襲われるのに、どこかホッとしている自分もいた。そこですぐに自己嫌悪に陥る。

『本当、悪い。この埋め合わせは必ずどこかでする』

 紘人が丁寧に謝罪するから尚更だ。会わなくてどこか安心している自分がいるなんて知られたくない。慌てて気持ちを切り換える。

「あんまり無理しないでね。紘人、来週から出張なんでしょ?」

『ああ。それにしてもどうした? 愛理、最近元気ないだろ。なにかあったのか?』

 不意打ちの彼の質問に心臓が止まりそうになる。彼に違和感を抱かせるほどには、私の態度はぎこちないものだったらしい。原因が紘人だとは悟られないよう一拍間を空けて明るく返す。

「大丈夫、なにもないよ! 心配かけてごめんね』

『なにかあったら言えよ』

 電話を終え、紘人の優しさに涙が出そうになる。いつまでもこのままじゃいけない。彼に本当のことを伝えよう。その前に確かめないと。

 ちらりと部屋に飾ってあるカレンダーを確認する。

 明日は、紘人と会う予定だったから丸一日空いた。動くなら今しかない。私は再びスマホを操作し、ものすごく久しぶりに自分から父に連絡をとった。
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