愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 翌日、新幹線を使って帰省する。母と父は離婚して別々に住んでいるが、比較的近くに住んでいた。だから母のところにも顔を出しておこう。

 昨日電話に出た父は、突然私が連絡してきたことに驚いてはいたが、時間をつくってくれることになった。仕事かと思ったが、自宅にいると言われ家に向かう。

 遠い昔、私と母も一緒に暮らしていた家だ。懐かしさを胸にリビングへ歩を進める。

「久しぶりだな、愛理。仕事の方はどうだ?」

 久しぶりに会った父は、だいぶ老け込んだ印象だった。年相応なのかもしれないが白髪も増え、貫禄はあるが以前に比べると覇気はそこまでないように感じる。

 確実に親も年を取っているんだ。コーヒーを淹れる背中は少しだけ曲がっていた。

 近況をぽつぽつと報告し、すぐに沈黙が訪れる。相変わらず父との会話はぎこちない。昔からそうだ。元々子どもが好きなタイプでもなかったらしいから無理もないかもしれないが、社会人になってからは仕事について話が続くようになった。

「お父さんに、聞きたいことがあるの」

「なんだ?」

 父と向かい合わせで座り、意を決して紘人の件を切り出す。

「うちが開発して話題になった暗号資産取引に特化した金融システムがあったでしょ?」

「ああ」

 父の顔がかすかに不審そうに歪んだ。肝心なのはここからだ。一度、唾液を飲み込み、私は続ける。

「……そのとき、外部の大学院生を開発に携わらせていなかった?」

 父はなんと答えるのか、どう認識しているのか。
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