愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 翌日から紘人は長期の出張が入っていたが、その間に何度も連絡をくれて会って話そうとメッセージを送ってきた。けれどそれをすべて拒否して、私は会社を辞める決意をした。

 元々ひとりでいる母を気にはしていたし、ちょうど高校のときの親友が地元で会社を立ち上げ、システム関係を担ってほしいと声をかけられていた。

 いい機会だ。職場には共通の知り合いもいるし、会うのを避けていても紘人とは住んでいる場所も近い。なにかの拍子に会ってしまう可能性もある。お互いに避けたほうがいい事態だ。

 ところが実家に戻ってから妊娠に気づいたのは完全な想定外だった。体調が優れないのは会社の引き継ぎや引っ越しで疲れが溜まっているからで、それが原因で生理が遅れていると思い込んでいた。

 紘人に連絡を取るべきか悩んだが、お腹の子は父の血も引いている。その事実を隠し通せるわけもない。そんな子どもを紘人はどう思うだろう。……いらないって言われたら?

 迷っている間につわりが始まり、体調面も精神面もボロボロだった。苦しくて吐きながら涙もあふれてくる。全部自業自得だ。

 けれどすぐに考えを改める。お腹の子に対してそんなふうに思いたくない。自分の中に宿った命を諦める選択肢など最初からなかった。

 とっくにこの子を愛している。だから前を向かないと。最初から父親がいないのは申し訳ない。でもその分私が愛情いっぱいに育ててみせるから。

 強く決意して、空が青々とした五月晴れの昼過ぎに生まれたのは、彼の面影をしっかり残した可愛い男の子だった。紘人の名前から一文字もらい“真紘”と名付ける。

 私のエゴだとしてもなにかしら父親との繋がりを子どもにあげたったのだ。

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