愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 息せき切ってアパートに戻ると、母がいつも通り出迎えてくれた。

「おかえり。思ったより早かったわね。真紘もいい子にしていたわよ」

 母に抱っこされている真紘は私を見るなり、抱っこを求めてくる。上と下の歯が二本ずつ生えて、表情も豊かになった。真紘をぎゅっと抱きしめて心を落ち着かせる。

「どうしたの?」

「ごめん。崎本さんとの結婚、だめになっちゃった」

 私の様子を不審に思った母に尋ねられ、さらりと答える。

「な、なにがあったの!?」

 母の反応も当然だ。おそらく母の目には、私が崎本さんとの結婚がなくなりショックを受けているように映ったのだろう。けれど私が動揺している一番の理由はそこじゃない。

「実は……」

 一度呼吸を整え切り出した。

 なにからどう言えばいいのか。極力手短に説明していく。崎本さんが私と結婚したがっていた理由は父の後釜狙いだったこと。新しく社長になるのは、真紘の父親である紘人だという話も。

 母には妊娠がわかり、お腹の子の父親についてすべて告げた。別れた理由も、父が紘人にした仕打ちも含めて。紘人には言わずに未婚の母で生むという決断を、母は心配しながらも尊重してくれた。

 そして真紘が生まれ、待ったなしの育児が始まった。想像以上に大変な日々に見舞われ、意気込んでいたわりにひとりで子どもを育てるなんて到底無理だと実感する。

 泣きやまない真紘と一緒に泣いてしまったのは一度や二度じゃない。それでも母がそばにいて、真紘の可愛さに励まされてここまできた。
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