愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
「俺は偏食がすごすぎてバナナしか食べなかったって聞いたことがある」

 紘人の話に噴き出しそうになった。今の彼からは想像もつかない。

「バナナ美味しいもんね。真紘も大好きだよ」

 そこで注文していた品が運ばれ、ふたりで交互に真紘を見ながら食事を楽しむ。話題はもっぱら真紘についてで、合間にお互いの子どものときの話も混じり、初めて知る彼の一面になんだか嬉しくなった。

 レストランを出て、改めて桜を見てから帰ることにする。

「綺麗」

 動物園の塀沿いに並んだ桜は立派なものだった。近くのベンチでお弁当を食べている人たちも多い。

「付き合っているときも愛理は外でのんびり過ごすのが好きだったよな」

 懐かしそうに紘人が桜を見ながら目を細める。どちらかといえばインドア派の紘人をよく連れ出した。次に、視線を腕の中の真紘に向ける。

「真紘とね、約束したの。去年はまだお腹の中で、生まれたら一緒に桜を見に行こうって」

 もちろん真紘自身はまったく覚えてもいないし、わかっていないだろう。自己満足だけれど、叶えられてよかった。

「でもまさか、紘人も一緒に見られるなんて」

 そこまで言いかけて口をつぐむ。いきなり紘人が横からすっぽりと私と真紘を抱きしめ腕の中に閉じ込めたのだ。外なのもあり驚いて抗議しようとする。

「来年もまた来よう」

 しかし私よりも先に紘人が口を開く。彼は腕の力を緩めて私に視線を合わせた。
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