愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
「真紘の初めてを愛理と一緒に経験できてよかった」

 そんなふうに嬉しそうに言われたら、もうなにも言えなくなる。そう思うのは私の方だ。去年の今頃は、出産に対する不安と希望でいっぱいで紘人と交わる未来があるなんて思いもしなかった。

 私はそっと目線を落とし、真紘の頭を撫でる。

「無事に生まれて、大きな病気や怪我もせずここまで大きくなってくれてありがとう」

 もちろん子育てはまだまだ先が長く、この先なにがあるのかもわからない。でも一歩ずつ進んでいくしかないんだ。

 紘人の車に乗って帰路につく。今から動物園にやって来る車も多いみたいだ。真紘も今日はいつもより長くお昼寝するかもしれない。背もたれに体を預けている真紘は眠たそうだ。

「よかったら、ちょっとうちに寄っていかないか?」

「え?」

 紘人にお礼を告げようとしたらミラー越しに彼と目が合う。

「一緒に住む予定なのにまだ見てなかっただろ?」

 そう言われてみたらそうだ。真紘が気にはなるが、もし眠ったら寝かせてもらおう。どっちみち引っ越し前に見ておく必要はあるだろうし。

「じゃあ、少しだけお邪魔させてもらおうかな」

 紘人のマンションはKMシステムズからも母と暮らすアパートからもほどよく近かった。昨年できたばかりの高級マンションでチラシが入っていたのを思い出す。

 ここにはどんな人が住むのだろうと思ったけれど、まさか自分が住むことになるなんて。広々とした駐車場に止まった車から降りて、真紘を抱っこしたまま息を呑む。
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