愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
「子ども部屋は別にあるから」

 どこまでも真紘と私との生活を優先しようとしてくれる紘人に頭が下がる。自分の子どもとはいえ、突然知らされた存在と一緒に住み、自分の生活スタイルを変えるなんて簡単にはできないはずだ。

「紘人は……本当にいいお父さんだね」

 なにげなく呟き、動物園での記憶がよみがえる。

『あらあら、いいお父さんねぇ』

『いいえ。父親なんていいとこ取りですよ』

 あれは謙遜だったのか。

「その……動物園で女性に話しかけられたとき、紘人は否定していたけれど、私から見てもいいお父さんだって思うよ」

 今まで真紘と出かけるのは私ひとりか母も一緒という状況だったので、父親についてあんなふうに声をかけられるのが初めてでなんだか新鮮だった。

 逆に父親についてを聞かれて気まずい雰囲気になった経験は何度かあるけれど。

 それにしても、彼がわざわざああやって律儀に返したのは意外だ。私の指摘に、紘人はどこか気まずそうな顔になる。

「あれは、実際俺が居心地悪く感じたんだ。いいお父さんって言われるほど真紘にも愛理にもなにもしていないから」

 まさかの考えに私はすぐさま否定の声をあげる。

「そんなことないよ! 紘人は私や真紘にこうして向き合ってくれて、今日だって忙しいのに時間をつくってくれたもの」

 なにもしていないなんてとんでもない。しかし彼は眉尻を下げ、困惑顔で微笑んだ。
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