愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
「ベッドは嫌なのか?」

 たしかにアパートでは私と真紘は布団を使って眠っている。しかし今はそこではない。

「あの……できれば寝室は分けてもらいたい、かな」

 誰と誰の、というのは言わなくても伝わったらしい。紘人が虚を衝かれた顔になり、慌てて補足する。

「その、紘人が嫌とかじゃなくて。真紘、まだ夜泣きというか夜中に何度か起きるから、紘人はこのままで私と真紘はできれば別の部屋で寝たほうがいいと思うの」

 仕事で忙しい彼を下手に起こしたりするのも申し訳ないし、正直気を使うのもしんどくなりそうだ。

「いいよ、気にしない」

 しかし紘人は私の提案をあっさり却下する。

「でも」

「愛理」

 続けて私の反論は名前を呼ばれて制された。彼はあきれた表情で続ける。

「俺に気を使っているのもあるんだろうけれど、同じ寝室にしたら俺を起こさないようにって気疲れしそうだって思っているのもあるんだろう?」

 ずばりと言い当てられ、言葉に詰まる。私の考えなど紘人にはお見通しのようだ。すると紘人は労わるように私の頭をそっと撫でてきた。

「真紘の夜泣き……頼りないかもしれないけれど、代われるときは俺も代わる。だから、そんなふうにひとりで抱え込もうとしないでくれ。頼ってほしいんだ」

 彼の訴えに目の奥がじんわり熱くなる。今まで気を張っていたなにかがふと緩みそうになった。

 育児をする中で、どんなにつらくてしんどいときも“母親なんだから”と自分に言い聞かせて乗り越えるようにしていた。母を頼りながらも、どこかで申し訳ない気持ちが拭えず、誰かになにか言われたわけでもないのに苦しかった。
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