恋人たちの疵夏ーキヅナツー

惨夜の一室

惨夜の一室/その1
アキラ


後ろ髪引かれるってのは、こんな感じなのかな

明日にはまた会えるのに、なんか離れるのが、いつもより辛いや

思わずキスまでしちゃったし…

とにかく集中だよな、大事なオーディションなんだから

さて、バス停に着いたが、待ってる人は誰もいないや

...


少しすると、うしろからオレの肩をたたく人がいる

「あの…、そこの道入ったとこで、あなたを待ってる人がいますよ…、ケイコさんのことで相談があるとかって」

振り返ると、若い男の人が立っていて、そう話しかけてきた

「え?誰ですか、それは…」

「呼んできてくれって頼まれただけなんで、ボク。すぐそこにいますよ、その人」

そう言うと、男の人は、今指差した道の方に歩いて行った

誰だろう…?

まだバスの時間あるし…

ちょっと確認してみるか

ケイコちゃんのことっていうんなら

オレは、その人が向かってる方向へそのまま歩いて行き、路地を一本入った

そこには2人の若い男が、塀にもたれてて、こっちを見てる

「やあ、アキラさん」

一人が手を上げて、オレの名を呼んだ


...


二人とも、知らない人だ

と、次の瞬間…、背後からタオルのようなものを口に覆われた

やや湿っていた感触を感じると同時に、オレの体は数人に抱きかかえられた

そして身動きできない状態で、あっという間に前から走ってきた、黒いバンに乗せられた

車内には運転手含めて4人いたが、さっきの二人は乗ってないようだ

なにがなんだかわからず抵抗してみたが、3人が体に乗っかかってて、全然動けない

口にはタオルをあてがわれたままで、声も出せない

やがて、意識が遠のきはじめた

さっきのは麻酔だ、きっと…

頭の中でそう確信したが、そこで記憶が途切れた






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