少女達の青春群像           ~舞、その愛~

そえぞれの結末

 とうとう運命の日がやってきた。

 女の子にとっての運命の日、バレンタイン。

 この日を迎えるのが凄く怖かったけど、ここまできたらなるようにしかならないよね。

 舞は自分のことではなくて、響歌のことでバレンタインが来るのを怖がっていた。

 もちろん自分のことだって、怖い。今までの人生で初めてちゃんと自分の口で告白しようとしているのだ。怖くないわけが無い。

 でも、響ちゃんもするし、歩ちゃんだってするんだ。自分だけ逃げるわけにはいかない。

 今日の授業はもう終わっている。後は決戦の時を迎えるだけだ。

 響ちゃんは授業が終わったらすぐにハッシーの家に向かうと言っていた。ハッシーはもう帰っているらしく、姿も鞄も無い。響ちゃんがハッシーの家に行っても留守ということはないだろう。

 あぁ…でも、どうなるんだろう。ハッシーに断って欲しいような、受け取って欲しいような。凄く複雑な気分だよ。もしかしたら響ちゃんは、バレンタインには実行しない方が良かったのかもしれない。そんな気にまでなってくる。

 それでも歩ちゃんの為に実行しなければ。歩ちゃんはあと少しで細見さんとお別れになるのよ。それまでに気持ちくらいはぶつけて欲しい。

 それなのに響ちゃんが止めてしまったら、歩ちゃんまで止めてしまう。もちろん私が止めても、歩ちゃんは止めてしまう。

 実を言うと、どう考えても上手くいくとは思えないんだよねぇ。

 やっぱり『遠慮しとく』という言葉がかなり効いたんだ。

 いや、でも響ちゃんも歩ちゃんも頑張るんだから、私も頑張らないと!

 それでも学校にいる時はさすがに渡せなかった。やはり人目につくのは嫌いなのだ。

 でも…それならどうやって渡そう。

 舞は悩みながら4時台の電車に乗った。駿河駅から乗ったお陰で席が結構空いている。今日は響歌がいないとわかっているので自分達の指定席には座らなかった。すぐ近くにあった横向きの席に着く。

 やっぱり帰りに家に寄る方法が一番いいのだろうか。

 ヘッドホンをして音楽を聞きながら渡す方法を色々と考えていた。

 その時、比良木駅に電車が到着した。すぐに扉が開き、比良木高生が乗ってきた。舞はその集団には目もくれずに悶々と考えていたが、フと前を見て仰天した。

 なんと川崎が、目の前の席に座って読書をしていたのだ!

 これって、もしかしなくてもチャンスなんじゃないの?

 そ、そうよね、チャンス、チャンスよ!

 ちょっと、何をしているのよ、早くやっちゃいなさよ!

 そうは思うのだが、硬直して動けない。さすがにいきなり過ぎる。

 完全に石化してしまう。電車はそんな舞を乗せて、ゆっくりと宮内駅を目指して走っていった。


 
 あ~、私のバカ、バカ!

 せっかくのチャンスだったのに。もう、何をやっていたのよ!

 舞は宮内駅のベンチに座り、頭を抱えていた。

 なんて自分はダメダメなのだろう。

 そんな舞の肩を、誰かが軽く叩いた。

「何、やってんのよ。川崎君、帰っちゃったよ?」

 聞き覚えのある声に、驚いて顔を上げる。

「響ちゃん、なんでこんなところにいるの!」

 舞の目の前にいたのは、いるはずのない響歌だった。

「そりゃ、帰り道だから」

 当たり前の言葉が返ってきた。

「ハッシーの家まで歩いて行ったんだよね。それなのになんでこんなに早いの!」

「一応急いで行ったからね。ギリギリ4時台のに乗れた」

 今、気づいたが、響歌の機嫌があまりよろしくない。

 いや、これは…もしかして怒っている?

「もしかして…失敗した?」

 恐る恐る訊いてみると、響歌は腹立たしそうに話しだした。

「率直に言うと失敗した。受け取ってもくれなかったし、何も言わなかった。腹が立ったからそのまま帰ってきた。終わり」

 とても率直だった。

「何よ、それ。受け取らない理由も教えてくれなかったの?」

「そうね、とても素気なかったわよ。相変わらず仏頂面だったしね。だからこれでもう終わり。かえってスッキリしたわ」

 舞から見ても、響歌は傷ついていなさそうだった。猛烈な怒りは感じるが、吹っ切れたような感じがする。

「実を言うと、私が実行したのって歩ちゃんの為だったのよね。でも、こんなにスッキリするとは思わなかったわ。もっと早く実行したら良かったと思うくらいよ」

「え、本当に?私の前だからって、強がっていな…いみたいだね。なんだか本当に心の底からスッキリしたっていう感じに見えるよ」

 響歌は本当に強がってはいないように見えた。憑きものが取れてスッキリしたという感じだった。

「ま、あんたの方は実行しなくてもいいでしょ。私がしたんだから、歩ちゃんも告白すると思うわよ。歩ちゃんには家に帰ってから報告の電話でもするよ」

 肩をすくめながらそんなことまで言ってくれる。

 それでも響歌が頑張ったのだから、自分がここで引き下がるわけにはいかない。

「いいや、私も頑張るから。さっきは渡せなかったけど、響ちゃんの話を聞いて私もやる気になったよ。終わったら報告するから、待っていて」

「わかった。まぁ、やるんだったら、頑張れ」

 響歌はそう言うと、丁度到着した電車に乗って帰ってしまった。



 川崎の家に寄ることも少しは考えたが、今日はそのまま家に帰ってきた。

 それでも告白しないのではない。家に帰ってきてしまったが、今の自分にはスマホがある。川崎家に電話をかけてチョコのことを川崎に言う。

 舞が自転車に乗りながら考えた結論はそれだった。

 そうと決まれば善は急げ、だ。もうどうにでもなれ!

 舞は覚悟を決めると、川崎の家に電話をした。

 数回のコールの後、声がした。

「はい、川崎です」

 これは、テツヤ君本人だ!

「もしもし、今井です」

「あぁ」

 舞は息を吸うと、一気に言った。

「急に電話してごめんなさい。実はバレンタインのチョコを渡したいの。もし良かったら明日渡したいんだけど、どうかな。迷惑だったら、渡さないし。今、返事が訊きたいんだ」

 川崎は即答しなかった。3秒くらいの間があった。

「オレ、もらう気は無いから。ごめんな」

 やっぱり…そうだよね。

「わかりました。言ってくれてありがとう」

 舞はそう言うと、電話を切った。

 …やった、テツヤ君に告白した!

 結果はわかっていた。

 だからだろうか、諦める決心がついた。気持ちの区切りがついた。そんな気がする。

 響歌がさっき言ったことが身に染みてわかる。

 今はとてもスッキリした気分だった。

 そんな舞は、バレンタインの翌日、学校を休んだ。
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