献身遊戯~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~
恐る恐ると目を向けると、そこにはやはり、耐えきれずに関係を絶った以前の恋人の顔が、のれんの隙間から入り込む妖怪のごとく覗いていた。
「知り合い?」
すぐに穂高さんが小声で聞いてくる。
一瞬で私からかすかな距離を取ったらしく、横並びは不自然であるものの、適切な距離感の位置に座っていた。
元カレ、と答えられなかった。
というより声が出せない。
二年前、半年ほど付き合っていた元恋人、佐武淳司(さたけあつし)は、久しぶりに顔を見ても恐怖がわいてくるだけだった。
見た目も出会ったときの印象もごく普通の人のに、私に対する態度はどんどん横暴になり、まるで王様のように振る舞ってくる。
のれんから覗く顔はクシャッと歪んだ笑みを浮かべ、背後にいた友人と思わしき数人の男女が「先行ってるぞ」といなくなると、許可もなく個室の中へと入ってくる。
「久しぶりだなぁ愛莉。それ今の彼氏?」
無関係の穂高さんへ絡んでくるのではとゾッとし、思いきり首を横に振って否定した。
穂高さんに迷惑をかけることだけは阻止したくて、声を搾り出す。