ピースな私と嘘つきなヒツジ
頭がズキズキと響き、耐えきれずに目を開ける。唇はカサカサで喉は渇き、更に体の異変に気づいた瞬間、ここがどこなのかもわからなくなった。見知らぬ部屋、見知らぬベッド。その背後で、誰かに抱きしめられていることに、千夏は思わず息を呑む。
そして、自分が一糸まとわぬ姿でいることに気づいたとき、二日酔いとは違う重い疲労感が体を包んだ。昨夜の行動のすべてが、一気に頭を駆け巡る。自分が犯してしまった失態の大きさに、胸が締めつけられるようだった。
(やってしまった…。)
初めて経験する一夜の過ちに、どうか背後にいる相手が同僚でないことを祈った。もし、背後にいる人物が同僚であれば今後お互いに気まずい関係が続く。それだけは嫌だった。かと言って顔も名前もわからない知らない男だと考えると恐怖で脈が速くなる。こうなれば、相手が誰であれ目を覚ます前に消え去るのが1番だと思えた。
(取り敢えず、相手の顔を見てからそぉーっと帰宅しよう…。)
背後の相手を刺激しないように千夏はゆっくり、ゆっくりとベッドから抜け出そうとしてみた。
「千夏さん…。おはよ。」
千夏の努力は虚しく、名前を呼ばれたことに世界の終わりを感じた。
(えっ!?……この声ってNAGIの声?)
低く太いがどこかかすれた特徴的な声に最推しのNAGIではないかと思い、『まさか!』と胸がときめいたが、直ぐに『そんな奇跡は起こり得ない』と気持ちを落ち着かせてから先ほどまでの慎重さはどこへやら、クルっと振り返ると、どこか見覚えのある若い男性の顔がそこにはあった。本人は酔っていて覚えていないが、初対面同様なんとなく見覚えがあるものの名前が出てくるような知っている人物ではなかった。
(良かった…会社の人じゃない。…じゃあこの声って…。もしかして、本物!?)
NAGIは一切顔出しをせずに声だけで動画配信を行っているので千夏がNAGIかを特定するものは『声』で判断するしかなかった。なので、本人だなんてそんな奇跡なんか起こらないとわかっているのだが、ここまで声が同じだと僅かな期待を捨てられずにいた。
「…もしかして。あの、な…NAGI?」
「千夏さん、まさか記憶飛んでる?俺、凪の兄の泉。廿楽 泉。」
(凪の兄??廿楽 ??ってまさか…。)
「えっ?まさかカフェでアルバイトしてる凪ちゃんのお兄さん!?」
(いっ…いったいどういう事?)
何がどうなっているのかサッパリわからないと言った表情で千夏は泉を見つめた。
(凪ちゃんのお兄さんだから見たことがある顔だと思ったのか…。まっまさか…。私ってば凪ちゃんもいるのにお兄さんと!?)
「やっぱ、記憶飛んでんじゃん…。2人きりの甘い夜を忘れるなんて俺ショックだわー。」
そういうと泉は身を起こして千夏のおでこにリップ音を立てながらキスをした。
「俺、千夏さんのせいでめっちゃ体力つかったからまだ眠いんだけど。寝ていい?それとも、もう一回する??」
(私のせいで体力使った!?もう一回するっ!?…やっぱりわたしたち致してしまったのね…。)
「…いぇ。どうぞ…。寝てください。」
千夏が小さな声でもごもごと返事をすると泉は大きくあくびをし、再び強く千夏を抱きなおして寝息を立て始めた。
「千夏さん、いい匂い。」
密着しているせいで耳元で囁かれた声にゾクゾクする。
(声はそっくりだけど残念ながら配信者のNAGIではないみたい。でも…、起きたら凪ちゃんのお兄さんのベッドにいるなんて!!!!)
泉の腕の中で千夏は想像もしなかった現実に大人として深く反省をした。それからゆっくりと顔を上げ泉の眠りが深くなったことを確認すると気づかれない様に彼の腕から抜け出し、急いで脱ぎ散らかした服をかき集めると、裏表を確認する余裕なく身に着けて逃げるようにマンションの部屋を出た。
そして、自分が一糸まとわぬ姿でいることに気づいたとき、二日酔いとは違う重い疲労感が体を包んだ。昨夜の行動のすべてが、一気に頭を駆け巡る。自分が犯してしまった失態の大きさに、胸が締めつけられるようだった。
(やってしまった…。)
初めて経験する一夜の過ちに、どうか背後にいる相手が同僚でないことを祈った。もし、背後にいる人物が同僚であれば今後お互いに気まずい関係が続く。それだけは嫌だった。かと言って顔も名前もわからない知らない男だと考えると恐怖で脈が速くなる。こうなれば、相手が誰であれ目を覚ます前に消え去るのが1番だと思えた。
(取り敢えず、相手の顔を見てからそぉーっと帰宅しよう…。)
背後の相手を刺激しないように千夏はゆっくり、ゆっくりとベッドから抜け出そうとしてみた。
「千夏さん…。おはよ。」
千夏の努力は虚しく、名前を呼ばれたことに世界の終わりを感じた。
(えっ!?……この声ってNAGIの声?)
低く太いがどこかかすれた特徴的な声に最推しのNAGIではないかと思い、『まさか!』と胸がときめいたが、直ぐに『そんな奇跡は起こり得ない』と気持ちを落ち着かせてから先ほどまでの慎重さはどこへやら、クルっと振り返ると、どこか見覚えのある若い男性の顔がそこにはあった。本人は酔っていて覚えていないが、初対面同様なんとなく見覚えがあるものの名前が出てくるような知っている人物ではなかった。
(良かった…会社の人じゃない。…じゃあこの声って…。もしかして、本物!?)
NAGIは一切顔出しをせずに声だけで動画配信を行っているので千夏がNAGIかを特定するものは『声』で判断するしかなかった。なので、本人だなんてそんな奇跡なんか起こらないとわかっているのだが、ここまで声が同じだと僅かな期待を捨てられずにいた。
「…もしかして。あの、な…NAGI?」
「千夏さん、まさか記憶飛んでる?俺、凪の兄の泉。廿楽 泉。」
(凪の兄??廿楽 ??ってまさか…。)
「えっ?まさかカフェでアルバイトしてる凪ちゃんのお兄さん!?」
(いっ…いったいどういう事?)
何がどうなっているのかサッパリわからないと言った表情で千夏は泉を見つめた。
(凪ちゃんのお兄さんだから見たことがある顔だと思ったのか…。まっまさか…。私ってば凪ちゃんもいるのにお兄さんと!?)
「やっぱ、記憶飛んでんじゃん…。2人きりの甘い夜を忘れるなんて俺ショックだわー。」
そういうと泉は身を起こして千夏のおでこにリップ音を立てながらキスをした。
「俺、千夏さんのせいでめっちゃ体力つかったからまだ眠いんだけど。寝ていい?それとも、もう一回する??」
(私のせいで体力使った!?もう一回するっ!?…やっぱりわたしたち致してしまったのね…。)
「…いぇ。どうぞ…。寝てください。」
千夏が小さな声でもごもごと返事をすると泉は大きくあくびをし、再び強く千夏を抱きなおして寝息を立て始めた。
「千夏さん、いい匂い。」
密着しているせいで耳元で囁かれた声にゾクゾクする。
(声はそっくりだけど残念ながら配信者のNAGIではないみたい。でも…、起きたら凪ちゃんのお兄さんのベッドにいるなんて!!!!)
泉の腕の中で千夏は想像もしなかった現実に大人として深く反省をした。それからゆっくりと顔を上げ泉の眠りが深くなったことを確認すると気づかれない様に彼の腕から抜け出し、急いで脱ぎ散らかした服をかき集めると、裏表を確認する余裕なく身に着けて逃げるようにマンションの部屋を出た。