主役になれないお姫さま
吉川は俺が思ったより良いやつだった。

『突然で申し訳ありません。三浦さんのことでご相談したいことがあります。ご都合の良い時に食事でもいかがでしょうか。』

ある日、出社するとこのような内容の社内メールが届いていた。
相手は吉川だった。

あんなに感じの悪い態度を取った俺に対して丁寧に接触をしてきた。

 なかなか度胸はあるじゃいか。

詩乃のことで相談となれば断るわけにいかない。
時間を調整し、最近気になる居酒屋に吉川を呼び出した。

「本日はお時間いただきありがとうございます。」

吉川は丁寧にあいさつをする。

「気にしなくていい、僕こそ歓迎会の時は大人げなかったと反省しているよ。あの時は悪かったな。」

「いえ…。僕もすっかり酔っぱらってしまっていたので…。」

店に入ると同時に注文したビールがテーブルに置かれたので、まずは乾杯をし、適当につまみを頼んだ。
俺と二人きりということで緊張しているのか吉川は先ほどから何度もおしぼりで額を拭いている。

「吉川は僕が現れなければ、詩乃と付き合うつもりだったのか?」

突然切り込んだ俺の言葉に一瞬目を丸くし驚いた表情を見せたが、直ぐに手元に置かれた割りばしを見つめながら返事をした。

「まぁ…チャンスがあればそうしていたかもしれません。」

「…そうか、横取りしたみたいで悪かったな。」

「それは彼女が決めることですから…。」

確かに恋愛は1人ではできない。
独占欲の塊で自分よがりな今の俺にはそんな言葉を言える余裕はなかった。

「実は、早速ですが、三浦のことで話ておきたいことがあります…。」

吉川は再びビールに口を付けると、何か覚悟決めたかの様に話しだした。

「同じ二課に所属する佐々木さんについてなんですが…。三浦の元彼って聞いてますか?」

「あぁ、大体の話はきいてる。もちろん彼女からだけだが…。」

「そうなんですね…。実は佐々木さんと詩乃をあまり近づけたくないんです。」

「それは元彼だからか?」

「まぁ、個人的にはそういう意味で近づけたくないですが違います。なに一つ証拠を掴めていないので僕には見守るしか出来なくて…。」

詩乃が佐々木と別れる少し前から変な噂を聞いた言っていた。

先日結婚した経理の山田沙織と佐々木がコソコソ何かやっていると言うものだった。
初めは経費を水増ししている噂もあったのだが、証拠は上がらなかった。
そのうち、2人が付き合っている噂が立ち、結婚の話になったので恋人同士がただいちゃついていただけだったと皆は気にしなくなったのだそうだ。

しかし、2人の関係がオープンになったあたりから詩乃への態度が変わったと言う。

明らかに濡れ衣の様なお粗末ないちゃもんをつける様になったそうだ。

吉川は初め、別れた彼女との接し方に戸惑い距離感がつかめず仕事がやりづらいせいだと思ったそうだが、アシスタントの野田さんから佐々木の様子が明らかにおかしいと報告があり注意して見てみると誰が見てもいびっている様子だと言う。

入社に関しては後輩にあたる詩乃だが、仕事は佐々木より出来ていた。
そのおかげで未だに大事に至らず済んでいるとのことだった。
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