主役になれないお姫さま
「片付けやりますよ。」

食事の後、一宿一飯の意を込めてそう言ったのだが、『食洗機に入れるだけだから。ソファーでゆっくりしてて。』と断られてしまった。

お酒を飲みすぎたせいなのか、横谷さんとの行為のせいなのか体がだるかったのでその言葉はとてもありがたかった。

テレビをつけてボーッと見ていると、1週間分のニュースが読み上げられていた。アナウンサーの一定に保たれる声が眠気を誘う。

ウトウトしていると朝食の片付けを終えた横谷さんがソファーの隣に座った。

「まだ眠い?」

「…少しだけ。お腹いっぱいなったから眠くなったみたい。」

「おいで。」

片足をソファーに上げ両手を広げ、後ろから私を抱きしめるように座り直した。

「体重かけて大丈夫だよ。」

彼に抱きしめられると心の奥からホッとする。
会ったばかりの人なのにこんなに心を許してしまって良いのだろうか…。

背中に感じる温もりがとても心地よかった。

「今日はご予定なかったんですか?」

「んー…。引っ越したばかりだからね。雑貨類を買いに行こうと思ってた。でも、それは詩乃に出会う前の予定だ。詩乃に予定がないならこのままのんびり過ごさないかい?」

ギュッと抱きしめられて首筋にキスをされた。

「横谷さん、くすぐったい…。」

「あれ?俺たちもう付き合ってるんだろ?苗字で呼ぶなんて、よそよそしいんじゃないか?」

「えっ!?」

「あ、やっぱり、俺は遊ばれたのかな?」

しっかりと抱きしめられた腕からは逃げられず、首筋から背中へとキスは止まらない。

「かっ…一真さん!」

名前で呼ぶとやっと体から唇を離してくれた。
しかし、腰のあたりに一真さんの物が主張し始めた。

「…俺も若いな。」

「昨晩もしたんですよね?」

「したよ。でも、詩乃は覚えてないんでしょ?」

「事後の感覚はあるんですが…。」

「次は忘れないで…。」

そのままソファーに押し倒され深く口づけをした。次第にリップ音が大きくなり、吐息が漏れ、ことの始まりを告げる。

一真さんの大きな手が背中に回ると簡単に下着が外された。肌に触れてくる全てが気持ち良くてあっという間にその気にさせられる。

 絶対に彼は手慣れている。
 今まで沢山の女性を抱いてきたに違いない。

そう感じると無自覚に嫉妬していた。
過去の女性たちに負けたくないと必死に彼の良いところを探す。

「詩乃が可愛すぎる。君を大事にしたい。」

「もし、わたしが悪い人間だったら?会ったばかりで私のこと何も知らないでしょ?今の言葉、後悔するわよ。」

「昨日の君を見れば悪い人間だなんて思わないね。酒は本音の素だっていうだろ?」

足の付け根にキスをしながら、上目遣いで彼が言う。

「私、もう傷つきたくないの…。」

「俺はもう女遊びをするような歳じゃない。大丈夫だ。」

その言葉に安心したせいなのか、更に彼を敏感に感じ始めた。

そして、昼過ぎまで寝室に籠ることになった。
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