主役になれないお姫さま
酒が入っていたせいか眠りが浅く、目が覚めてスマホの時間を確認するとまだ6時半を過ぎたところだった。

女性を抱いたのは本当に久しぶりだった。
若いころに女には不自由しなかったせいか、35を過ぎたあたりからそんなに自分から求めなくなっていた。

しかし、昨夜は心から彼女を求めて自分のものにしたいと思った。
だから欲のためではなく、大切な宝物を扱う様に俺にしてはとても丁寧に抱いたと思う。

普段やならいキスマークなんかつけまくって、一体俺は何をやってるんだ。という気持ちになる。
しかも相手は一回りも年下の女の子だ。

隣で疲れ果てて眠る彼女の頭をそっと撫でてみると自然と口元が緩む。

 きっと、俺とは違って彼女は初めて出会った相手と直ぐにこんな関係になるなんて今までなかっただろうな…。

起きた時、どんな表情をするのかワクワクした。そんなドSな自分に驚く。

ちゃんと恋人なんて作る気持ちになったのは久しぶりだった。
『恋人以外抱かない。』とは言ったが、どちらかというと俺のお決まりの口説き文句だった。大体の女性はそう言えばやらせてくれる。そんな相手とは大抵1~2週間で別れた。
しかし、昨夜はこの言葉が素直に出たのだ。言い慣れているからではなく、彼女以外何もいらないと本気で思えた。

詩乃を眺めながらベッドの上でゆっくりとした時間を過ごしていると、床には淫らに脱ぎ散らかされた服があり目に入った。
自分の服はどうでも良いが彼女のワンピースが皺になっては困るだろうと、拾い集めてハンガーに掛けた。
そして、眠り辛いだろうと彼女がつけているアクセサリー類を起こしてしまわない様にそっと外して、普段、腕時計やカフスボタンを一時的に置いているトレイに無くさないように置いておく。

昨夜は予定外に体を動かしたので汗で体中がベトついていた。
彼女が寝ている間に寝室からつながるシャワールームへ行き汗を流すことにした。

普段より少し温度を上げたシャワーで頭を覚醒させ、彼女のとの関係を一夜限りにさせないために色々なパターンを想定する。
できる事ならばこのまま籠に入れて閉じ込めておきたい。
根っからの営業体質なのか、意とした方向にまとめ上げる、このクロージング作業が堪らなく好きだ。

髭をそり、ローションで保湿をし、体にはブランド物の香水を軽くまとう。
下着とスウェットのズボンを履き上半身裸でタオルで髪を拭く。

 水でも飲むか…。

のどの渇きを感じ、寝室に置かれた小型の冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出して口にした。
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