死神キューピッド
カッっとして、思わずそいつの胸ぐらを掴んだ。


「知るかよ。本当のこと言えば、どうだっていいんだよ。あんたのことも、高田って人のことも」


度を越した暴言に、怒りを通り越して……むしろ心がしんっと静まり返る。


そいつの顔からは一切の感情が消え、仄暗い瞳だけが鋭さを増していく。


そのとき、天を覆っていた雲が風に流されて、太陽の光が差し込んだ。


明るさに露わになった、その男の顔にハッとする。


とにかく、いけ好かない奴だと思った記憶がある。


底抜けな明るさに、揺らぎのない自信と煌めきをまとった健康で裕福そうな男。


なにひとつ、欠けているものがないだろうと思わせるその佇まい。


そこから感じさせる完成された人生。


けど、コンビニに現れたときに、すぐに気がつかなかったのは、憔悴して別人のようにやつれ果てていて、この男を形成する大切ななにかが抜け落ちていたからだ。


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