死神キューピッド
太陽の光が差し込んでも、なお、その男の周りにだけ、薄気味の悪い深い闇がそこにあった。


……なにが、あった?


突きつけられた不可解な伝言よりも、目の前の男が荒みすぎていることの方が、気になり始めた。


男の胸ぐらをつかんだ手を、緩めてはなす。


「……あんた、大丈夫か?」


きりっとした涼し気な造形にそぐわない、仄暗い瞳をのぞきこむ。


「……大丈夫じゃ、ないんだろうな。……ホントはさ、どうでもいいんだよ、あんたのことなんて」


「自分から呼び出しておいて、なに言ってんだよ……」


俺からはなれると、その男はドスンとベンチに座って空を仰ぐ。


投げやりに放り出された長い脚、雑な話し方、こけた頬、なによりその暗澹とした佇まいが語る絶望に、湧き上がった怒りが急速にしぼんでいく。


闇を背負って、その男が気だるげに口を開く。


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