死神キューピッド
だから、ここに来たんだ。


金なんてどうでもよかった。


しわくちゃの小汚いサルのような顔で、俺の手を必死につかんで謝り倒した親父、高田平四郎は生きていた。


おそらく長くはない。


けど、短くもない。


そうそう簡単にはこいつ死なないな……と感じさせる図太さが親父にはあった。


そりゃそうだ。


アル中で散々家族に迷惑かけて、その昔に接見禁止になった息子のバイト先を調べあげて、毎週客としてコンビニに会いにくるくらいには面の皮が厚いんだから。


ま、無事でなによりか。


顔をあげると、正面からミントグリーンのパーカーを着たガキが現れて、とっとっとっと駆け寄ってきた。


突然のことで避けきれず、どしんと俺の足にぶつかったそのガキは、跳ね返り尻もちをついている。


ったく。


そのガキに手をかして、その小さな体を起こす。


くるっと瞳を動かしたガキを一瞥する。


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