死神キューピッド
ケガはしてなさそうだし、大丈夫か。


一歩ふみだしたところで、そのガキが俺を指さして小首をかしげる。


「パパ?」


違うわ、ふざけんな。


呆れて通り過ぎようとしたら、その母親が慌てたように頭を下げる。


「すみません。この子、父親いなくて。あの、普段は若い男の人見ると、泣いちゃうんですけど」


「ああ、はあ」


なんだそれ。


こんないかつい顔した男、俺がガキなら号泣してる。


そう思いながら、その母親に視線を向ける。


長い黒髪をひとつにまとめて、擦り切れた細見のジーンズを身に着けている。


若い母親だな。


10代って言われても、納得する。


その姿が昔の自分の母親と重なった。


苦労のない人生なら、もっと豊かに美しかっただろうその横顔。


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