死神キューピッド
若さだけでは補えきれない幾十にも積み重なった疲労と、それでもなお誠実に生きようとする清らかさ。


ああ、似てる。


だからこそ、俺があの父親を許しても、母親は他人のあいつを許さないだろうなと、ぼんやり思う。


ま、許す必要なんてねえし。


まだ、俺のズボンに張り付いているそのガキに戸惑いながら、ポケットに手をつっこんだ。


「これ、やるよ」


今朝、コンビニに届いた店内装飾用の風船。


子供向けのキャラクターが描かれた風船をガキに渡した。


「ちーにゃんの風船だっ!」


「ありがとうございます」


無邪気な歓声と深々とした丁寧な礼を受けて、軽く会釈を返す。


余って処分しようと思っていたものが、ポケットに入っていただけのことだ。


その親子は病院の受付へと向かい、俺は病院から外へ出て、ぼんやりとベンチに座って外から親父の病室をながめる。


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