死神キューピッド
心のどこかで死んだものと覚悟していたからなのか、元気そうな親父、高田平四郎の顔をみて『良かった』と、ふいに零れた。


高校の頃から親父に送金していたバイト代は手付かずのまま通帳に貯められていて、かなりの金額になっていた。


なにより、貧しいながらも父親が全うに暮らしていたことに安堵した。


悪事に手を染めるような老後を送っていなくて、正直救われた。


どのくらい時間が過ぎたのか、そろそろ帰ろうと空を仰ぎながら腰をあげたそのとき。


空気を切るような悲鳴と同時に、太陽の光をなにかが翳った。


顔をあげると、視界に映ったのは、踊り場から身を乗り出す子供と、その子供に手を伸ばす病衣をまとった小柄な若い女。


入院患者らしき小柄な女が、手すりを乗り越えた子供の腕をつかんでいる。


―――は?


ミントグリーンのパーカーが空に浮かぶ。

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