絶叫、そして契り/『ヒート・フルーツ』第1部終盤エピソード特別編集版❣

赤い狂犬の絶叫

その1
麻衣



ついに”今日”を迎えたわ

正直、怖いよ

いくらイカレものの私だってさ

でも、決して変更はない

思い描く通りに持っていく

勿論、相手がどう出るかはあちら次第だよ

結果はいいんだ

私は心の奥底の私自身の思いによって、今日をやり遂げる

それだけさ…


...


”ピンポーン…”

いつもは軽快なトーンのチャイム音もやや重苦しいかな…

「やあ、久美、それに静美…」

「麻衣…、迎えに来たよ」

「麻衣さん…」

あれ?

今日は泣き虫の久美じゃなくて、静美の方が目を潤ませているよ

「三田村さんは車の中だよ。すぐ下に停まってるけど…」

「ああ、もう出られるからさ…。さっそく行こう」

夕方3時…

私は部屋の鍵を閉め、心も引き締めた


...


「麻衣!…助手席でいいかい?」

「ええ…。じゃあ失礼します…」

私は”戦場”への送迎車に乗り込んだ

「…先輩、本日はひとつ、よろしくお願いいたします」

「はいよ」

アンコウ先輩はいつも通りだった

「アンタ達も悪いね、付合わせちゃって…」

「麻衣…」

「麻衣さん…」

久美と静美…

ぶっ飛んだ私のことを、誰よりも慕ってくれてるこの二人には、是非見届けてもらわなくちゃ

”あんな行為”に及んだ私が、いかに”示し”を着けるのかを…

それは無様な姿を晒すことになるかもしれない

でも、しっかり目に焼き付けてくれ、二人とも…





あの火の玉川原決戦の直前…

久美と静美は、荒子総長を監禁していた廃倉庫に呼びつけていた

そして、あの現場で”踏み絵”をさせ、そのすべてを見せ、赤い狂犬の絶叫ライブを耳に植え付けさせたんだよな…

あの時…

私が廃倉庫に着くと、その視界には椅子に縛りつけられていた、南玉連合総長、合田荒子先輩が鮮明に飛びこんできた

言うまでもなく、その姿は私の意思・指示によるものだった…


...



「麻衣さん、お疲れ様です!」

「お疲れ…」

「ほんごう…!貴様…!!」

「こんばんわ、総長…」

赤い狂犬は椅子に縛り付けられている


...


「静美と久美はまだか?」

「もうすぐ到着すると思います…」

「…麻衣さん、早かったね。今日はお疲れさまです」

勝田さんだ…

「…勝田さん、今日はご苦労様です。ええと、ちょっといいですか…」

私は勝田さんを外に連れ出し、今後の”段取り”を確認した


...



「…了解しましたよ。まあ、うまくやりましょう」

「すいません…」

何と言っても、今夜の事後処理には、”プロの大人”による力添えが不可欠だ

だから、勝田さんには事前にね…


...


ここでまず久美が到着した

「ああ、麻衣、遅くなっちゃった。はは、お疲れ様…」

「久美、山間大橋はいい経験だっただろ?」

「うん、そりゃあ、凄かったよ。何て言ったって…、あっ…、静美だ!」

ふふ、面子は揃ったわね…

...


「遅くなりました!」

「静美、そっちはどうだった?」

「ええ、まあ…」

この二人…、全く対照的だよな

だが今、こいつらは最も確執を抱えてる仲だし、お互い一番意識してる相手になってるんだろう

という訳で、今日の余興ってことなんだな

で…、そんなお前らに試金石を与えてやるからさ


...



さっそく廃倉庫内に入ると、二人は案の定の反応だった

「総長…!!」

「…!!」

ハハハ…

さすがに耳には入ってても、実際、捕獲された狂犬を目の当たりにしてビビってるわ、二人とも(苦笑)

「麻衣…、どうするの?…これから」

「…総長にはまずこちらの話を聞いてもらって、それからだ」

「本郷、テメー、堂々と勝負できねーのか!!クソ野郎めが!」

本物だ…

この迫力、気迫…

惚れ惚れするよ…


...


でも、すいません…

今夜は、あなたにはおとなしくしていてもらわないと困るんです…

という訳で、始めますよ


...


「総長、まずは昨日の報告をさせてもらいます」

「バカヤロー!そんもんいいから、早く縄ほどけ!この場でぶっ殺してやる!」

すごい剣幕だ…

こんな廃倉庫でここまでがなり立てた人、いないでしょーね(苦笑)

ふふ‥、この場にいる8人全員、ブルってるし




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