春風、漫ろに舞う

弟切草

「……もう、何年も会ってないのに…。
なんで、今更…。」



お母さんから聞いた言葉が、頭から離れてくれない。


お願い。壊さないで。
わたしの日常を、崩さないで。



「…そんなことしたら、許さない。」



お気に入りの入浴剤を入れて、気分をあげようと思ったのに。
あんな話を聞いたあとじゃ、なんの意味もない。


高かったのにな、これ。
そう思いながら、ぶくぶくと自ら沈んでいく。



「…藤雅に、会いたい。」



無性に、会いたくなっちゃった。
お風呂出て連絡したら怒られるかな。
今仕事中だよね。
きっと、迷惑だよね。


…会いたい…。
藤雅に会いたい…。



「…随分と、甘えたもんだな。」



情けない、と。
あの人が見たら幻滅するのかな。
それとも、怒ってくる?


いや、きっと。
あの人なら…壊してくるんだろうな。
わたしが、幸せなのを嫌がる人だから。
< 301 / 327 >

この作品をシェア

pagetop