モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 恐ろしい者がいなくなり、これからは聖女として幸せに生きていけるというのに。

 悲しい気持ちになってそっと氷をなでる。するとピピがぴょんと氷の上にのり、小さなくちばしでつつき始めた。

「チチチッ」
「ピピ、だめよ……え?」

 注意をしようとしたベアトリスは声を失った。

 レネを覆っていた氷が、ピピがつついた部分からひび割れて砕け始めたのだ。

 一度崩れた氷が粉々になるまではあっという間だった。

 近づく者を拒むものはなにもなくなり、真っ白だったレネの頬に赤みが差し始める。

 やがて瞼が震えてそっと開き、美しい森を思い出させる緑の瞳に光が宿る。

「レネ?」

 ベアトリスは思わず彼女を覗き込んだ。

「えっ?」

 レネは大きな目を丸くする。けれどそれは一瞬で、すぐ目に涙を滲ませた。

「ロゼ……ロゼだよね?」

 姿ががらりと変わり今のベアトリスにロゼの面影はいっさいない。それでもレネは、ロゼの魂がたしかにここにいるのだと確信しているようだった。

 ベアトリスは泣き笑いになりながらうなずいた。

「うん、レネ、久しぶり。もう一度会えて本当にうれしい」
「ロゼ、ロゼ……うわああん」

 レネは小さな手を伸ばし、ロゼの首にすがりつく。

「ごめんなさい、私がわがままを言ったから、ロゼがあいつに!」

 呼吸困難になりそうなほどしゃくり上げて泣くレネを、ベアトリスはぎゅっと抱き返した。
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