モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 公爵一家の圧倒的な存在感に萎縮気味になっているのは、ベアトリス・ローゼ・クロイツァー。生まれてから今日までの十七年間、多くの人にかしずかれ、それが当然と受け止めてきた自尊心が高い令嬢だ。ところが彼女は今朝、突然前世の記憶を思い出した。

 ベアトリスの前世は、ロゼ・マイネという名前の女性だった。

 物心ついた頃には両親はなく孤児院で育ち、十六歳になると町で一番大きな宿屋の仕事につき、そのかたわら自分が育った孤児院の仕事を手伝っていた。

 真っすぐの焦げ茶色の髪に、つぶらな黒い瞳。贅沢は出来ないが食べるものに困ることはなく、慎ましく穏やかに暮らす日々。

 そんなどこにでもいるような平民の娘だった前世の記憶が、目覚めとともに蘇ったのだから、その驚きときたら言葉では言い表せない。

 しかし頭の整理をする間もなく、朝の支度を手伝いにやって来た侍女にダイニングルームに連れてこられて今に至る。

 一気に記憶が増えたため、まだ思考はぼんやりしていて目の前の光景に現実味がない。

 現世の記憶もかなり曖昧になっており、例えば使用人の名前も落ち着いてゆっくり思い出さなくてはならないほど。

 一番の問題は、前世の人格の影響が強く、昨日までのように振る舞えなくなっていることだ。
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