モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 しかも暮らしていた場所は今と同じ王都。働いていた場所は……などと一つひとつ思い出していったのがよかったのか、頭の中に次々と情報があふれだす。

 おかげで職場だった宿屋の名称まで思い出せた。

 そうなると、今はどうなっているのだろうと気になって仕方がない。

 ベアトリスは翌日、侍女のサフィに町に行きたいとせがみ、護衛にレオを連れて屋敷を出た。

 ロゼ・マイネ時代の職場だった『青(あお)空(ぞら)亭(てい)』は記憶の中では町一番の大きな宿屋だったが、実際行ってみるとたいしたことのないごく普通の建物だった。

 裕福な平民の利用客が多いようで、内装は小綺麗だし警備がいるなど安全面に配慮はされているが、公爵令嬢であるベアトリスが立ち入る場所ではないとサフィに大反対された。

 ロゼとして働いていたときは、あまりに高額で手が届かなかった、青空亭特製ステーキを食べてみたかったのに残念だ。

 宿屋の次はロゼが生まれ育った孤児院に向かった。『王都第三孤児院』という味気ない名称の孤児院は、記憶の中と少しも変わらずにそこにあった。

 蔦が絡まった灰色の外壁、煙を上げる煙突。きいきいと軋んだ音を立てそうな古めかしい玄関扉。町の様子は二十年の間にずいぶん変わったのに、この孤児院だけはまるで時が止まっているようだった。
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