モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 ベアトリスは頭をかかえたい気分になる。しかし今はそんなことをしている場合ではなかった。ユリアンの視線をひしひしと感じるからだ。

「おはようございます。王太子殿下」

 気づかないふりが通用するわけがなく、ベアトリスは隣に体を向けて頭を下げる。

「おはよう。久しぶりだな」
「は、はい」

 またぎろりと睨まれるかもしれないと身構えていたのに、気さくな返事だったので拍子抜けした。

「子どもたちは元気か?」

 さらに会話が続くので驚いてしまう。

(……もしかして、気を使ってくれているのかな)

 嫌いでも一応は婚約者同士だからか。ベアトリスが失敗しなければ、怒るような人ではないのかもしれない。


 不遇な環境にいながらも、勉強熱心で努力をするいい子たちだ。

(今頃、字の練習をしているかな……)

 そんなことを考えていたら思い出した。

(そういえば、この前王太子殿下の存在をすっかり忘れて放置してしまったんだわ)

 見送りすらせずに、子どもたちの相手に熱中していた。

(あの態度は無礼だったよね)

 ただ、今のところ文句を言ってくる気配はなく、表情も今までになく穏やかだ。

「子どもに様々なことを教えるのはよい考えだと思った。ほかの孤児院にも学習機会の導入を考えている。才能によっては国で雇う仕組みがあってもいい」
< 79 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop