魔法のいらないシンデレラ
一生が、いずれは父の座を継いでこのホテルを任されると分かった18歳の頃、ホテルのあらゆる部門で研修をさせてもらった。

もちろん宴会部門でのウエイター業務も含まれており、その時に付きっきりで指導してくれたのが、現在のバンケットマネージャーである福原だった。

総支配人になった今も、一生は彼への感謝と敬意を忘れていない。

今回、女学院の同窓会ということで、デザートの実演をおこなうのはどうかと提案してくれたのも福原だった。

女性のお客様には喜ばれるのでは?と。

「お客様の反応はいかがでしたか?」
「はい。皆様、動画や写真を撮られながら、歓声を上げて楽しまれていました」
「それはよかった。あなたの提案に感謝します」

再び頭を下げる福原に頷いてから、一生は早瀬が開けた扉からホールの中へと足を踏み入れる。

賑やかな声で溢れた会場は、華やかで明るい雰囲気だった。

一生は、素早くあちこちに目を向ける。

照明は強すぎないか、テーブルの配置はどうか、動線は危なくないか、テーブルに空の皿はないか…

ウエイター達も丁寧に立ち振る舞っているようで、安心した一生は一番近くの円卓に近づいた。

テーブルの友人達と談笑していた佐知が、ふと顔を上げる。
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