悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
3 思い出したのに、婚約!

 王都で買い物をしていた際に、魔物に襲われた私達。お母様はメアリーを庇って瘴気を浴び、倒れてしまった。

「お母様! お母様!」
「……あ、あ、わ、私……」

 泣き叫ぶ私とショックで震えるメアリーを庇い、護衛騎士達で魔物を薙ぎ払う。だが攻撃が効かないので埒があかない。

「メアリー! しっかりしろ! お嬢様を連れて逃げなさい!」

 ハロルドが叫んだ。併せて護衛の一人にお母様を抱えて逃げるよう指示する。メアリーは涙を拭き、私に「お嬢様、逃げましょう!」と声をかけた。だが──。

(私のせいで! 私は守れなかった!)

 目の前でお母様が倒れている。自責の念と失う恐怖で、逃げ出すことなんて考えられない。ただただ涙が溢れた。

『ギャー!』

 魔物がまた瘴気を放つ。泣きながら空を見上げると、私に命中するコースだった。思わず目を閉じる。

パァァァァン!!

「!?」

 聖騎士の一人が聖魔法を飛ばし、瘴気を薙ぎ払ってくれた。たった今、お父様率いる聖騎士団が到着したようだ。やっと身体が動いた。

「リディ!?」
「お、お父様……!」
「ソフィア!? なぜこんなことに! とにかく逃げろ!」

 お父様はお母様に駆け寄りたいのを必死に我慢し、私たちを逃がしてくれたのだった。



 なんとか公爵邸に戻り、医師を呼び寄せた。だが、やはり魔物の瘴気に当てられていて、治療法はなく、命が尽きるまで、腐りゆく身体の痛みに耐えるしかないのだと言われてしまった。

 お母様は酷い熱も出ていて、いつまで身体が持つかわからない。

「ソフィア……ソフィア……あぁ……」

 お父様は別人のように弱々しくお母様の手を握っている。魔物退治を終え、急いで帰宅したお父様は、何時間も騎士服のまま、着替えることもせずにお母様の側で泣き続けていた。
 二人が愛し合っているのは知っていたが、これほどまでにお父様はお母様を愛しているのだと痛感し、守れなかった自分を私は責め続けていた。

「リディ」
「お兄様……」

 お母様の寝室に入れず、廊下でうずくまって泣いていたところに、お兄様がやってきた。優しい眼差しで私の頭を撫でると、私の横にそっと座る。

「お前は怪我はないのか?」
「私のことなど……。それより、お母様が!」

 泣き腫らした私の頬を、そっとお兄様の手が包む。そして、お兄様の魔力を感じたかと思うと、心地よい温かい何かに包まれた。
 すると、魔物と初めて戦って出来た小さな傷が、あっという間に治ったのだ!

「リディが聖魔法を石に込めた時、俺も真似してみたんだ。そしたら、すごい攻撃魔法じゃなくても聖魔法を込められるようになって。土属性だからかな。どう? こうしたらちょっとは癒される?」

 癒されるどころか、身体中の痛みが全て消えた。迷いも悲しみも消え、心に光が灯るのを感じる。

 そうだ。『聖魔法といえば魔物を倒せるもの』と思い込んでいたけれど、これは『光魔法』だったわ!!

「ありがとうございます! お兄様! ついてきて!!」

 そうして私はお母様の部屋へと駆け出した。
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