敵国王子の溺愛はイケメン四精霊が許さない!~加護持ち側妃は過保護に甘やかされています~
 殿下に手を引かれ、人だかりの脇をすり抜ける。
「初めての観覧でこのサーカス団の巡業にあたるとは、君はツイている。他団より格段に演者の技術が高いんだ。ここの演目を観たら、他で観られなくなるぞ」
 殿下は言外の状況まで察しただろうに、慰めは一切口にしない。
 その代わり、彼の軽口には私への思いやりが滲んでいる。彼の優しさが、苦しいくらい心に沁みる。
「それは楽しみです! でも、目が肥えて他のサーカスを楽しめなくなってしまうのも、少し寂しい気もしますね」
 彼といると辛かったり悲しかったりしたかつての思いがスーッとなくなって、温かな感情に置き換わる。この感覚はジークフリード殿下だけが齎す。精霊たちにも感じたことのない感覚だった。
「大丈夫だ。彼らの一団は季節ごとに巡業してくるからな。次は夏に、また一緒にサーカスを観よう」
「次……、楽しみですね」
 殿下との〝次の約束〟が嬉しいのに少し切ない、不思議な心地がした。
 そうして辿り着いた中央広場。催事エリアに設置されたサーカスの巡業テントの周囲は家族連れや恋人たち、多くの人たちで賑わっていた。
 テントの横ではちょうど午後の公演のチケットが売り出されており、私たちも購入の列に並んだ。
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