敵国王子の溺愛はイケメン四精霊が許さない!~加護持ち側妃は過保護に甘やかされています~
 どういうことだ!? 信じ難いが、風は俺の体表だけを巡っているようだった。
 そんなことがあり得るのか? それとも俺がなにかおかしいのか……。
 眉をしかめつつ、おもむろに車内を見る。すると微笑みを浮かべたエミリアが、宙を見上げてまるでなにかに語り掛けるように唇を動かす。彼女は実際の声にはしなかったが、俺は読唇の心得があった。たしかに彼女は『ありがとうね しるふ』とそう言っていた。
 『しるふ』とはなんだ? そう言えば朝も隙間風の話になった時、彼女は『そんな日はシルフに』と言いかけていたな……。
 俺がジッと見つめていたら鎧で見えずともなにか察したのか、彼女はわざとらしい咳ばらいをして座りを正した。
 体感の温度は涼しくなったはずなのに、俺の頭は妙な熱を持ってちっとも思考が纏まってくれなかった。
「全身鎧でこの陽気では暑いですよね。でも、朝よりも少し風が出てきたみたいでよかったわ」
 次の休憩で馬車を降りたら、彼女が笑顔でそう言った。だが、やはり周囲の草木はそよいではいなかった。
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