敵国王子の溺愛はイケメン四精霊が許さない!~加護持ち側妃は過保護に甘やかされています~
 最初の頃に『鎧で蒸れたり擦れたりするのは、怪我の痕によくないのでは』と遠慮がちに尋ねられた。どうやら彼女は、俺には怪我や火傷でひどい痕があり、それを隠すのに鎧を着ていると考えているらしい。
 心配してくれる彼女に心が痛んだが、事実を明かすわけにもいかず結局曖昧に答えるしかできなかった。
 今日は特段暑いからだろう。太陽の下を走行し始めてからエミリアがチラチラとこちらを窺っているのに気づいていた。しかし、いざ俺が彼女に顔を向けると逃げるように目線を落としてしまう。
 ……なぜ俺の視線から逃げるんだ? これは、俺が見返さない方がいいということか?
 訝しく思いつつ、しばらくはあえて正面を向いたままで馬車に並走した。
 ん? その時、ふいに鎧の隙間を涼やかな風が通り抜け、体感の温度が下がる。
 風が吹く。それ自体なんら不自然なことではないが、俺の直感が懐疑を訴えていた。
 咄嗟に目線だけで周囲を見回すと、目の前の草木が葉を揺らしていないことに気づく。
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