逃すもんか
ケーキを食べながらフランス語教室の話しや、ブランドバックの最新カタログを見ながら話しが盛り上がっていると、昇太くんは眠たくなったのか泣き出した。

「昇ちゃん、おねむかなぁ〜ミルク飲ませて昼寝させるね。
ゴメンね大崎くん。」

「いいえ。昇太くんおやすみ〜」
泣きながら京香さんと別室へ向かった。

すると、田村先輩から
「大崎くんには会社へ話しをする前に伝えようと思って今日ウチへ誘ったのもあるんだ。」

「??……」

「実は俺…来年の秋からフランスで働く事になったんだ。」

「え! もしかして先輩が憧れていたブランドですか?」

「いやそことは違うんだけどさ〜……
だいぶ前に話した事があると思うけど、専門学校の時の片桐先生のところにさ〜
あ、先生はもう学校も退職してるんだけどね。
その片桐先生が勤めていたブランドの後輩の職人さんから『いい職人がいたら紹介して欲しい』と連絡があったらしくて、

俺、1ヶ月前に1週間有給で休んだだろ?
あの1週間で課題のハンドバッグを片桐先生の息子さんの工房で作ってたんだわ。
息子さんも今は独立して起業されてて…
それで、正式にそのブランドの職人として採用してもらえる事になった知らせがきたのが昨日なんだ。」

「田村先輩! おめでとうございます。
先輩の夢が叶うんですね!本当におめでとうございます。」

「ありがとう。大崎くんはオレが初めて指導した新人さんだったし、俺の話からブランドのバック職人の夢を持ってくれて一緒にフランス語も頑張って…だから大崎くんには先に採用の事を伝えたかったんだ。
そしてこれからもずぅーと同じ職人として付き合っていきたいと思っているんだ。」

「田村先輩にそう思っていただいてありがたいです。
オレはこれからも先輩を手本として頑張ります。 
先輩、本当にありがとうございます。」

「こちらこそ、ありがとう。」
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