霊感御曹司と結婚する方法
 退院を控えて、病室でストレッチや筋トレをできる範囲でするようにしている。

 今日もそんな感じで夜をすごしていたら、一瞬、照明の明かりが揺らいだかなと思う程度の錯覚がして何度か瞬きをしてみた。

 そうしたら、窓辺に兄が立っていた。

「お前も今度、中学受験するんだろう?」

 何を言っているのかわからなくて黙っていた。 

 でも兄をよく見ると随分若い。今の自分より。大学生くらいだ。それで自分の中で何が起きているのか理解した。ただ、それを受け入れるにはこみ上げる悲しみをおし殺す必要があった。

 向こうに感づかれると、この淡い影は消えてしまう。俺は、向こうがこちらを認識しているとおりに演じていればいいだけだ。

 兄がまた聞いてきた。

「大丈夫なのか? 俺と同じところだろう?」

「……受かるよ。たぶん」

「そういう心配じゃない。別に俺と同じことをしなくてもいいんだぞ?」

「マネなんかしてないよ」

「そうか?」

「でも敦司兄さんが僕の目標だ」

「俺を目標にしても仕方ないと思うが、歳の離れた弟にそう言われると嬉しいもんだな。

 ちょうど、お前くらいのときに俺の母親が死んだ。ずっと病気だったから覚悟はあったが、やっぱり当時はきつかった。

 立ち直れたのは学校に行って、寮に入って、友達が出来たからだ。父と少し距離を置けたのも良かったのかもしれない。父も母を亡くしてしばらく心を失っていたからな。

 父は忙しくて病気の母にあまり時間を割くことができなかった。子供の俺は、父を理解できなかった。でも、今ならわかる。父の立場も。

 かなめさんには感謝している。彼女のおかげで、父も自分を取り戻したし、俺はお前に出会えたんだから。かなめさんのことをお母さんと呼べずじまいになったことは申し訳なかったな」

「母も、兄さんの気持ちはわかっているよ」

「家で一緒に過ごす時間はほとんどなかったが、俺はお前が可愛くて仕方なかった」

「僕にとっても自慢の兄だ」

「父との関係が、多少なりとも改善できたのはおまえがいたからだと思っている」

「俺にはわからないことだな。記憶がない」

「それはそうだ」

 いつの間にか兄の姿は、今の年齢に近い姿に変わっていた。彼の時間はここで止まっている。

「これからもっと一緒に仕事ができて、昔の時間を取り戻せるかと思っていたんだがな、なかなかうまくいかないもんだ」

「これからどこに行くんだよ?」

「昔の友人から声をかけてもらっている。しばらくそっちで世話になろうと思うんだ。お前には心配をかけてばかりだな」

「それは、大丈夫だ」

「言っただろう? 俺なんか目標にしても仕方ないって。俺はどうしようもない兄だし、父の期待にも応えられなかった。だが、お前は気にしないで自分の思うように、どうにでもしたらいい」

「……わかった」

「飛行機の時間が近いんだ。急に決まった話で父に話も出来ていない。かなめさんにもよろしく言っておいてくれ」

「敦司兄さん、来てくれてありがとう」

 俺は何とか笑顔をつくって言った。

 兄も微笑んで、軽く手をあげて病室の扉のところで消えた。
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